退職代行業者から連絡があったときの対応

 今回は、「退職代行」についてです。退職代行については、2018年にメディアに取り上げられて以降、急速に増加し、私も相談を受けることが珍しくなくなりました。
 退職代行業者等から連絡を受けると、驚いてしまう事業主さんもいらっしゃると思いますが、正しく理解して、どのように対応すべきか知っておけば、いざ退職代行業者等から連絡があっても、冷静に対応できるのではないでしょうか。
 そこで、「退職代行」について、次の通り纏めましたので、ご一読いただけると幸いです。


1.退職代行を経由した退職の基本
•労働者は無期契約であれば、2週間前に退職の意思表示をすれば一方的に退職可能(辞職)。
•退職代行業者は、あくまで「使者」として労働者の意思を伝える立場であり、代理人(弁護士等)ではない。
•意思伝達だけなら合法とする見解もあるが、退職条件の交渉や未払賃金請求等は弁護士法72条に抵触する可能性大。


2.退職代行業者ができること・できないこと
■可能なこと(ギリギリ)
•退職の意思表示を伝えること
■違法の可能性が高いこと
•退職日や有休の取得希望の交渉
•離職票の送付先、備品返却などの連絡調整
•未払賃金や慰謝料の請求
☑ 上記が退職代行業者経由であった場合、本人からの連絡を促し、書面確認・署名をもって意思確認を行うのが望ましい。


3.弁護士・ユニオン・家族等の場合
•弁護士やユニオン:代理人として交渉可能。受任通知の提示を求め、協議に応じる。
•家族や友人:代理権はない。必ず本人の自筆による退職届を求める。


4.実務対応のポイント
•退職代行業者とのやり取りは最小限に。退職の意思は受領しつつ、添付書面などで本人確認を取る。
•個人情報の第三者提供同意書も可能であれば取得。
•担当者の氏名と連絡先を必ず記録。なりすまし防止のため、折り返し確認も推奨。


5.就業規則での禁止規定は有効か?
•使用者に相談せず退職代行を使うことを禁じる規定は法的効力を持たない可能性が高い。
•明文化すること自体が従業員の不信感につながるため、記載は推奨されない。


6.業務委託契約者の場合の対応
•業務委託契約では、労働契約と異なり一方的解除は原則不可(条項による)。
•労働者ではなく業務委託者の場合は、契約解除の協議が必要。
•実態が「労働契約」に近い場合は注意。判断に迷ったら労働契約と仮定して対応を検討。


7.引継ぎ命令は可能か?
•理論上、退職意思表示から2週間は在職中のため業務命令は出せる。
•ただし、実際には出社拒否や有休申請が予想され、引継ぎは事実上困難。
•損害が出ても請求は難しいと考えるべき。


8.退職後の他社からの問い合わせ対応
•「退職代行を使った」などの否定的な情報提供は名誉毀損や不法行為になる可能性。
•中立的・事実のみの情報に留める。


9.本人への直接連絡の是非
•弁護士・ユニオン:原則、直接連絡は避ける。
•退職代行業者:違法ではないが、本人は連絡を拒否している可能性が高いため慎重に。
•やむを得ず本人に確認が必要な場合は、退職代行業者を通じて伝言してもらう。


10.有給休暇取得の申出があったとき
•時季指定がされていれば、使用者の承認なしで取得可能。
•ただし、本人確認は必要。可能なら本人の意思を再確認。
•協議(買取や日数調整)は不可。あくまで意思表示の有無を確認。


11.未払賃金や慰謝料請求を兼ねる場合
•退職代行業者がこれらを請求するのは明確に弁護士法違反。
•受け付けず、「本人または代理人(弁護士)からの連絡を求める」と伝え、以後は応じない。
•すぐに自社の顧問弁護士等に相談する。

いかがでしょうか。
「退職代行についてもう少し詳しく知りたい」、「今まさに退職代行業者等とやり取りをしていてどう対応したらいいかわからない」等ありましたら、遠慮なくご相談ください。